関西カルチェラル・スタディーズ若手研究会(仮称) 「「コミックス」のメディア史―「大衆文化としてのマンガ」再考―」のご報告

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    はじめまして。カルチュラルタイフーン2011会計担当の山際です。6月25日の実行委員会後に行われた「関西カルチュラル・スタディーズ若手研究会」についてご報告申し上げます。

    今回は関西学院大学大学院の山森宙史さんをお招きし、「「コミックス」のメディア史―「大衆文化としてのマンガ」再考―」というタイトルでお話いただきました。
    現在書店で取り扱われるコミックス(新書判コミックス)が登場した時期にマンガのメディアがいかに変化したのかという点に注目し、雑誌媒体に依拠した「大衆文化としてのマンガ」像において不可視化されてきた側面を浮かび上がらせるのが今回の発表の目的です。

    発表中に新書判コミックスの黎明期に対照となる形であげられていたのが、同時期の「貸本」と「劇画」の変化です。

    貸本はその名の通り、書籍を低料金で貸し出しする商業形態を指します。貸本の店頭に並ぶ書籍やマンガ単行本は、正規の書店・流通ルートとは異なるルートで制作・出版されたものであり、その描き手たちも今で言う「マンガ家」とは出自が異なり、日雇い労働者としての側面が強いものでした。
    そのため貸本マンガの内容は(大手出版社が発行するような)児童教育的な物に限らず、貧しさや社会の恨み、エロ、グロを基調とした大人の読者を対象とした作品−「劇画」−が多く掲載されていました。これら「貸本」と「劇画」というマンガのメディアとテクストは、新書判コミックスの登場を境に大きな変化を迎えることになります。

    新書版判コミックスは、1960年代後半の第二次新書ブームの派生商品として誕生しました。その後1966年には新書判コミックスの出版を専門とする会社が次々と登場、翌1967年には講談社、集英社などの大手出版社が本格的に参入し、新書判コミックスはマンガ市場の主力商品に発展してゆきます。それは貸本市場にも影響を与え、貸本マンガの出版社も正規出版ルートを通した新書判コミックスを発行するようになりました。

    また、この時期のマンガ流通の変化は、マンガ作品そのものにも影響を与えます。それまでマンガ単行本は短編読み切りが基本であり、マンガ雑誌との関連性はありませんでした。しかし新書判コミックスの登場後、シリーズものや長編ものの作品が出版されるようになります。そして、本市場の新書判マンガの発行により、これまでにはなかった長編劇画作品が登場するようになりました。同時期の大手出版社による劇画作家の囲いこみと共に、劇画作品はより大衆に受け入れられやすい商業誌(週刊誌)に適したスタイルへと変化してゆきます。
    そして同時に劇画の商業誌化は、現在の商業誌を主軸としたマンガ誌とコミックスの併読の下地を築きあげ、コミックスはオリジナルプリント(週間誌に掲載されたマンガ)に対するリプリントとしてマンガ誌の中に取り込まれてゆく形になるのです。

    しかしその一方で、コミックスというメディアが本来ならば忘れさられるはずのマンガを拾い上げ、メインストリームとは別のブームやカルチャーを作り上げるきっかけになる場合もあります。少女漫画の男性読者の増加はマンガ誌ではなくコミックスがきっかけとなっているし、ひおあきら作「宇宙戦艦ヤマト」のようにマンガ誌ではなくコミックスに書き下ろされた作品がオタク的ファンダムに受け入れられるという事象がそれを物語っています。新書判コミックスの登場と発展には、マンガ作品の「売られる・買うメディア」としての商業的要素への傾倒のみならず、逆にマンガの文化的多義性をもたらす要素も持ち合わせているのです。

    最後に山森さんは、50年代から70年代にかけての大衆文化という言葉の変容期に登場した加藤秀俊と石子順造の発言に言及されました。
    週刊誌や新書の登場により「標準化された大衆文化」として、「エリート対大衆」の構造が崩壊し、異なる階級の間の文化的落差が小さくなると分析した加藤秀俊に対して、石子順造は出版資本主義が拡大し「大衆文化としてのマンガ」が喪失すると、マンガ産業に対して悲観的に捕らえています。
    山森さんは、「新書版コミックスの登場によってマンガ誌、ひいてはマンガ文化は加藤と石子の両方のモデルを維持するという緊張関係をはらんだものになっているのではないか」、そして「コミックスのメディア史は戦後マンガ史を「物」という側面から見直すものであり、現在存在する「マンガ文化」の言説からは欠落した歴史性を見直すことができる」と述べ、発表を終えられました。


    その後、「単行本の短編ものからシリーズものへの変化に伴い、マンガのテクストや表現方法自体も変化したのではないか?」「コミックスの登場に伴うマンガ賞の登場などによって、マンガ家のキャリアやマンガ家になる過程もまた変化したのではない?」といった質問や考察がやりとりされました。

    実際の貸本マンガや初期のコミックスの具体的な作品を例示していただき、本論に織り交ぜてマンガ出版の裏話もたくさんお話していただき、大変内容の濃い研究会になりました。山森さま、本当にありがとうございました。

    文責:山際節子(会計)

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